大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 平成7年(オ)1933号 判決

上告人

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

伊藤伴子

被上告人

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

青木秀樹

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人伊藤伴子の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

離婚の訴えにおいて、別居後単独で子の監護に当たっている当事者から他方の当事者に対し、別居後離婚までの期間における子の監護費用の支払を求める旨の申立てがあった場合には、裁判所は、離婚請求を認容するに際し、民法七七一条、七六六条一項を類推適用し、人事訴訟手続法一五条一項により、右申立てに係る子の監護費用の支払を命ずることができるものと解するのが相当である。けだし、民法の右規定は、父母の離婚によって、共同して子の監護に当たることができなくなる事態を受け、子の監護について必要な事項等を定める旨を規定するものであるところ、離婚前であっても父母が別居し共同して子の監護に当たることができない場合には、子の監護に必要な事項としてその費用の負担等についての定めを要する点において、離婚後の場合と異なるところがないのであって、離婚請求を認容するに際し、離婚前の別居期間中における子の監護費用の分担についても一括して解決するのが、当事者にとって利益となり、子の福祉にも資するからである。

被上告人の本件申立てに係る養育費とは、右にいう監護費用の趣旨であると解されるところ、原審が、被上告人の本件離婚請求を認容するに際し、被上告人の申立てに基づき、同人と上告人との間の長女A(平成元年三月一六日生まれ)の監護に関して、離婚の裁判が確定する日(本判決言渡しの日)の翌日からAが成年に達する平成二一年三月までの間の監護費用のみならず、上告人と被上告人が別居し、被上告人が単独でAの監護に当たるようになった後の平成四年一月から右裁判確定の日までの間の監護費用の支払をも上告人に命じた点に、所論の違法はない。原審の右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官遠藤光男 裁判官小野幹雄 裁判官高橋久子 裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例